新型コロナ禍では、「補償なし休業」の被害に多くの非正規労働者があっており、青年ユニオンでも様々な取り組みをしてきました。その取り組みの中から、「シフト制労働」という働かせ方が非正規労働者の休業補償の障害となっていることが見えてきました。そこで、青年ユニオンと青年ユニオン顧問弁護団は、シフト制労働の問題点とその規制の方向性を提案するため、『シフト制労働黒書』を作成し、5月6日記者会見にて発表しました。以下、シフト制労働黒書の概要を、政策提言の部分に絞って紹介したいと思います。
シフト制労働黒書の全文はこちらから
◆シフト制の問題と休業手当の適用拡大・水準改善
第1に、使用者都合の休業についての使用者の休業手当支払い義務を定めた労基法26条をシフト制労働者にも適用し、また「平均賃金6割」とされる休業手当支払いの最低基準を引き上げることを提案しています。
新型コロナ禍では、多くの企業が「シフト制労働者には休業補償をする法的義務はない」と主張しており、厚生労働省・労働基準監督署も、こうした企業の主張を正当化する法解をしています。黒書では、国の法解釈を改め、労基法第26条の休業手当支払い義務をシフト制労働者の場合にも広く適用するよう求めています。
休業手当支払い義務が適用されたとしても、「平均賃金6割」では生活を支えることが困難です。労基法12条で定められる「平均賃金」の算定方法に従うと、「平均賃金」そのものが通常給与の数割減となり、労基法26条の最低基準はそのさらに6割になります。新型コロナ禍では、「休業手当が支払われたが通常給与の半分以下になった」という相談も多く寄せられました。黒書では、労基法26条と労基法12条の改正によって、労基法の休業手当の最低基準が通常給与8割水準となるよう提言しています。
第2に、最低保障シフト(最低保障労働時間・最低保障賃金)の、労働契約書や労働条件通知書への記載を法的に義務付けと、労働組合と企業・業界団体との労働協約による確定を提言しています。従来のシフト制労働の運用では、無補償のままシフトによって労働時間を0にしても構わないことに実際上なってしまいます。しかしそれでは労働者の生活が不安定になるため、これ以上シフトを減らしたら休業補償をしなければならない最低ライン、最低保障シフトの契約書・条件通知書への明記や労働協約での確定を提案しています。
◆失業時・休業時の生活保障制度の拡充・創設
第3に、雇用保険の改善を提案しています。シフト制労働者には短時間労働者が多く、また学生は雇用保険に加入することができません。しかし、非正規労働者の増加や正社員の賃金の低下に伴って、短時間労働者・学生労働者の収入はますます重要になっています。黒書では、短時間労働者のための雇用保険制度の創設や学生労働者の雇用保険への包摂を提案しています。加えて、現行の雇用保険では自己都合離職と判断されると2か月間の給付制限が課されますが、この給付制限の撤廃も要求しています。
第4に、国や企業横断的な制度による休業時所得補償政策の創設を提案しています。労基法上の休業手当支払い義務の適用拡大や水準拡充は、個別企業に休業補償責任を負わせるものですが、それに加えて国もしくは企業横断的な機関・制度による休業補償を考えることができます。新型コロナ禍で創設された休業支援金制度は、国による補償ですし、前月のニュースレターで紹介したイギリス港湾産業で1948年に成立した「全国港湾労働スキーム」は企業横断的な制度による補償でした。シフト制労働者の所得保障は、個別企業に行わせるか、国に行わせるか、企業横断的な制度・機関に行わせるか、という選択肢があり、個別企業による休業補償が困難なのであれば、国もしくは企業横断的な制度による補償が制度化される必要があります。
Comments