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シフト制労働黒書

 首都圏青年ユニオン・首都圏青年ユニオン顧問弁護団は、2021年5月、以下の黒書を発表しました。


 要約(画像・PDF)、本文(PDF)は下記からご覧いただけます。






第1 事例報告編 

1.はじめに

新型コロナウイルス禍では、非正規労働者、とりわけパート・アルバイトの「補償なし休業」の問題が大規模に顕在化した。本来事業主都合の休業ならば、法的な休業補償義務が使用者に課される。しかし新型コロナウイルス禍で休業に追いやられたパート・アルバイトの多くが休業補償を受け取れずに、大幅な収入減と生活困難に直面していたのである。

首都圏青年ユニオン(以下「青年ユニオン」)は、新型コロナ禍で苦しむ多数の労働者から相談を受け、その救済のため、企業との交渉に取り組みつつ、雇用調整助成金や休業支援金など公的休業補償制度の改正や拡充のために取り組んできた。一方で、企業の賃金未払いの横行、労働基準監督署の対応の問題など、現状の法制度や行政機関の運用上の問題にも直面してきた。

本黒書は、コロナ禍で首都圏青年ユニオンが取り組んできた様々な活動を踏まえ、シフト労働者の現状の実態を告発するとともに、そこから見えてきた現状の労働法による救済の限界や行政機関による救済の不十分な点などについて、シフト労働者の救済という観点から政策提言を行うものである。

なお、本黒書は、青年ユニオンの専従である原田仁希、栗原耕平、尾林哲矢、青年ユニオン顧問弁護団の川口智也(事務局長)、青龍美和子、山田大輔、藤原朋弘、本間耕三(以上、事務局次長)、浅野ひとみ(弁護団員)が共同で執筆したものである。

2.シフト労働者の現状

(1)パート・アルバイトの「補償なし休業」問題

首都圏青年ユニオンには、2020年4月から2020年12月までで約800件の労働相談(例年は年間300件ほど)が寄せられた。ここから他団体と共同で行った労働相談ホットラインで寄せられた労働相談を除いた440件の労働相談の内容を見てみよう。

 相談者の雇用形態を見ると、事業主や失業者を除いた労働者のうち、70.1%がパート・アルバイトであった。正社員からの相談は17.0%である。産業としては、相談の58.2%が飲食店労働者からであった。相談内容を見ると、「事業主都合休業」についての相談をしているのは全体の65%であり、雇用形態別にみると、パート・アルバイトの79.8%が「事業主都合休業」の問題についての相談をしている。対して正社員のうち「事業主都合休業」の相談をしているのは35.8%である。飲食業をはじめとする対人サービス業におけるパート・アルバイトの「補償なし休業」問題が、新型コロナウイルス禍の労働問題の中心であった。

(2)シフト制労働者の休業補償受給の困難

 「休業」とは、「労働契約上定められる労働時間・労働日(所定労働時間・所定労働日)」よりも「実際の労働時間・労働日」が少ない場合に発生するが、事業主都合で休業が発生した場合には事業主が休業補償をしなければならない。ではなぜ対人サービス業のパート・アルバイトは休業補償を受け取れなかったのだろうか。それは、彼ら・彼女らのほとんどが「シフト制」で働いていたためである。次章の事例にもあるように、休業補償を拒む企業の多くが、「シフト制であるため休業補償義務がない」と主張していた。

 シフト制とは、1週間・半月・1か月ごとに労働者と管理者との間で作成される「シフト表」によって最終的な労働日・労働時間が確定される働き方である。労働時間・労働日が記載されている労働契約書・労働条件通知書が取り交わされていたとしても、「シフトによって変動する可能性がある」といった旨の文章が記載されている。このようなシフト制においては、シフトが出ていない期間については所定労働時間・所定労働日の存在が曖昧となるため、休業補償義務発生の前提となる休業の存在そのものが曖昧となるのである。

 シフト制のパート・アルバイトは、飲食業や小売業など、労働集約的でサービス需要の変動大きい産業において、需要に応じた柔軟な人件費調整手段と扱われてきた経緯がある。また会社の意に沿わない労働者に対する制裁手段(制裁的シフトカット)としても活用されてきた。柔軟な人件費調整や制裁手段としてのシフト制に大きく依存してきた対人サービス業に新型コロナウイルス禍の経済的打撃が集中したことから、パート・アルバイトの補償なし休業問題が大規模に顕在化したといえよう。

(3)シフト制労働と家計補助労働論

 このような企業にとって都合のよいシフト制運用を支えてきたイデオロギーは、「家計補助労働論」である。シフト制労働者は男性正社員に養われている「主婦パート」「学生アルバイト」であるから、彼ら・彼女らのパート・アルバイト収入の世帯収入における割合は小さく、たとえシフトを減らしたとしても生活に大きな影響を与えることはないと考えられてきたのである。しかし新型コロナウイルス禍では、補償なし休業の結果、退学を検討する大学生や、また生活困難に陥る女性パート・アルバイトが大量に現れた。1990年代後半以降の非正規労働者の増加や正社員賃金の低下は、「主婦パート」「学生アルバイト」ではない非正規労働者を拡大すると同時に、「主婦パート」「学生アルバイト」の世帯収入における重要性を、もはや「家計補助労働」とは言えないほどに著しく高めていた。企業による柔軟なシフト制運用を「家計補助労働論」によって容認することは到底できないということが、新型コロナウイルス禍で明らかになったといえよう。


3.首都圏青年ユニオンのシフト制労働者組合員の事例


① K株式会社

同社が運営するイタリアンレストランでアルバイトとして働いていた50代男性のAさんは、新型コロナ前には週に5-6日、1日10時間半程度働いていたが、2020年3月から一日あたりの労働時間が削減され、緊急事態宣言発令後の4月8日以降は5月末まで完全休業となった。Aさんが会社に休業手当を求めるも、会社は「正社員には休業手当が出るが、アルバイトには出せない」と拒否した。その後、Aさんは同僚と共に飲食店ユニオンに加入し、団体交渉を申入れ、通常給与10割分の休業補償を要求した。団体交渉の場で、会社は「店舗が入っている商業施設が閉鎖したことを理由とする休業であるため、会社都合の休業ではなく、休業手当の法的義務はない。また、Aさんはシフト制だが、シフトが組まれなくなっただけで休業ではない。」との主張で要求を拒否した。

会社とAさんの労働契約書によれば、労働時間の欄には「シフトによる」としか記載されていない。労基署に申告した際、Aさんは労基署職員から、「所定労働時間の定めがなく、毎月のシフトによって労働時間が決まるため、シフトが確定していなかった期間については、会社に休業手当の支払い義務(労基法26条)がない。」と説明を受けた。東京労働局としての統一した見解だという。その後飲食店ユニオンで会社前抗議や記者会見を行い、本人たちの満足できる金額で解決金を支払わせ和解した。

② 株式会社KIDS

 同社の運営する居酒屋で学生アルバイトとして働いていたBさんは、働いていた店舗が4月以降休業状態となったことで働けなくなり、月10万円ほどの収入が0となった。Bさんは親からの仕送りをもらっておらず、バイト収入と奨学金で学費と食費などの生活費を賄っていたため、生活不安の状況に陥った。同店舗で働く他の学生バイトとユニオンに加入して全学生アルバイトへの休業補償を会社に求めた。

 団体交渉の場で会社は、休業補償の支払を雇用保険加入者に限定していると回答した。また「『遊ぶ金』がほしいため休業補償の対象にしてほしいと言われてもできない」との発言もあった。

 こうした会社の対応を「休業補償の学生差別」問題として記者会見で告発したところ、会社は学生アルバイトを含め全従業員への通常給与10割の休業補償を行うとホームページ上で発表した。

③ 株式会社L

40代男性でアルバイトとして働くCさんは、2020年4月4日から2020年5月19日までの期間シフトが0となった。会社に問い合わせても休業手当は支払われず、ユニオンに加入して全従業員に対する通常給与全額の休業補償を要求した。

 団交において会社は、「Cさんの雇用形態は、固定の勤務時間・労働日数ではなく、シフト制をとっており、コロナ禍以前も日により異なっています。柔軟な労働形態であり、日数・時間を確約した雇用契約ではないため、最低保証時間はございません」とシフト制を理由に休業手当の支払い義務はないと主張した。その後、団体交渉を重ねることで、Cさんが満足できる水準での解決金支払いを勝ち取った。

 しかし、2020年12月に店長との関係が悪化したことで、Cさんは一方的なシフトカットを受け、シフトの回復と休業補償を求めて再度団体交渉を行った。その結果、勤務先の店舗での勤務を減らし、他店舗でシフト回復をさせた。またシフトカット分の休業補償については、休業支援金申請に企業も協力することで解決とした。

④ 株式会社K

37.5度以上の発熱があり新型コロナウイルス感染の疑いが高い社員が度々店舗に出勤していたことに対し、感染拡大を恐れたアルバイトらが出勤拒否(ボイコット)した事例。アルバイトらは4月25日から緊急事態宣言が明けるまでをボイコットの期限としていたが、その間会社が新しく人員補充したため、復帰後は3月よりも大幅にシフトが削減された。新型コロナ前までは週5日・1日11時間働いていたある組合員の労働時間は、6月以降3分の1に減少した。

 契約書では、労働時間欄に「月120時間以上」という記載があり、社会保険にも加入していた。しかし6月の職場復帰時、労働契約上の所定労働時間が一方的に「月120時間以下」に変更され、社会保険も脱退させられた。

 ユニオンは主にシフトの回復を要求している。しかし、会社はそれに対して、「急に従業員が休んだ時のために、一人に長い時間勤務に入ってもらうのではなく、一人当たりの労働時間は減らして余剰の労働力を確保しておきたい」と要求を拒否した。シフト労働者の生活状況が一切考慮されず、ただ雇用の調整弁としてしか扱われていないことがわかる。また、会社側はシフト回復を求めた際、「ダブルワークなど労働者側も協力してほしい」と発言した。

⑤ ラーメンチェーン「一風堂」

 神奈川県内の店舗で働く組合員らは4月と5月に完全休業となった。確定シフトが出ていた4月15日までの期間は、労基法26条の最低限である平均賃金6割の休業手当が支払われたが、それ以降は無補償であった。また、7月の営業再開後も深夜営業が無くなり、深夜帯にシフトに入っていた組合員らは大幅に労働時間が削減された。3月以前は16万円~18万円の月収があったが、7月以降は5-6万円に減っている。秋ごろに10万円ほどに収入が回復していたが、再度の緊急事態宣言下でシフトカットされ、またもシフトが確定していた分しか休業手当が支払われなかった。

 ユニオンは全社的な休業補償を要求しているが、会社は、「アルバイトなどのシフト労働者の場合、所定労働時間が観念されず、休業手当の法的な支払い義務はないため、支払うことはできない」として拒否している。

⑥ 株式会社フジオフードシステム-パートアルバイト-

 株式会社フジオフードシステムが運営するカフェでパートとして働く30代女性のMさんは、新型コロナウイルスの緊急事態宣言を受けて勤務店舗が休業し、就労ができなくなった。休業補償は一切行われなかった。契約書では所定労働時間「週1日以上」となっていたが、実際には週4日から5日、1日5時間程度の勤務を恒常的に行っていた。

休業手当の未払いに関して、Mさんは3人のパート労働者とともにユニオンに加入し、休業手当の支払いを求めて団体交渉を行った。会社は、シフト確定分について平均賃金6割の休業手当支払いをしたものの、シフト未確定分については「店舗休業は商業施設の一時閉鎖によるものであり、会社の責に帰さない」と休業手当の支払いを拒否した。

一方で、会社は正社員には100%の休業補償を行なっていた。非正規差別ではないかと訴えたが、会社は、「(正社員は)収入が当社のみに限られている」ためと主張。

Mさんは2021年1月以降に異動となったが、異動先の店舗でのシフトは週1日〜2日程度に減ってしまった。シフト減少分について休業支援金の申請協力を会社に求めたが、会社は「シフト減に同意していたためシフト減は休業にはあたらない」と申請協力を拒否した。

⑦ 株式会社フジオフードシステム-フルタイムアルバイト-

Wさんはフジオフードシステムが運営する居酒屋「串家物語」渋谷店でアルバイトとして働いていた。契約書上は就業時間が決まっており、週5日勤務の1日8時間労働となっていたが、「注:上記終業時間帯、休憩時間、休日は各職場の状況によりかわることがある」と留保がついていた。

緊急事態宣言が4月に発令され、店舗は休業となり、Wさんも5月末まで休業となった。しかし休業手当の支払いはなかった。Wさんは休業手当未払いに関して労働基準監督署に申告した。シフト確定部分のみ支払い、シフト未確定部分については「支払い義務なし」として支払わない会社に対して、労基署は指導できないと判断した。

その後、Wさんが務めていた渋谷店は7月末で閉店となってしまう。会社からは別店舗への異動を提案されたが、店舗異動をしても「これまでのようにシフトには入れない」とシフトが大幅に削減されることを示唆された。そのため就業継続を諦め退職した。その後失業手当の受給を試みるが、雇用保険の加入期間が足りず、自己都合退職では失業手当の受給要件を満たさないことがわかった。雇用保険の加入期間の不足は、加入要件を満たしていたにもかかわらず会社が雇用保険加入手続を行なっていない期間があったことが原因であった。

Wさんは失業手当の受給も受けられず、補償が全くない中で、あらゆる生活支援制度を利用し、なんとか生き延びている状況である。求職活動をしているが、新型コロナ禍で新たな職を見つけることは困難であり、いつまで耐えられるのかわからないとのことである。

⑧ 株式会社D

Hさんは、これまでダブルワークやトリプルワークをつづけて生計を立てていたが、新型コロナ禍で、働いていた飲食店から「しばらくシフトに入れません」と言われ、2020年10月から株式会社D社のデリバリーアルバイトをはじめた。

ある日釣銭用の現金が合わないと言われ、不足の50円を支払うよう社員から言われたため、Hさんは、法律上不足分を払う必要はないと考え、支払いを断った。社員は「それがハウスルール」ですからと支払いを求めたが、Hさんは払わなかった。

 その出来事の直後から、Hさんのシフトが削られ始め、シフトは以前の3分の1に減らされた。社員にたてついたことでシフトを減らされてしまったのである。その後もHさんは継続的にシフトを減らされ続けている。契約書上の労働時間は「シフトによる」とのみ記載があり、会社は労働時間はシフトにより変動するものであると主張している。現在、団体交渉でシフトカット分の補償をするとともに、契約書を書き直し労働時間を週3〜4日と明記するよう求めている。

⑨ イートウォーク

株式会社イートウォークは有機野菜を使ったレストランを約20店舗経営する企業である。そのレストランのひとつで働くKさんとSさんはアルバイトとして週40時間超働いていた。昨年4月に緊急事態宣言が発令され、2人が勤務していた店舗も休業となった。5月半ば以降、店舗は再開したものの、正社員のみで店舗を切り盛りするとのことで、アルバイトは出勤できず、6月半ば以降はアルバイトの勤務が再開されたものの労働時間は大幅に削減されていた。

これら4月以降からの店舗休業期間や労働時間の削減分についてシフト労働者には休業手当が一切出なかった。そのため2人は飲食店ユニオンに加入し、休業手当の支払いを求めて団体交渉を行った。しかし会社は「シフトが決まっていない期間は予定している労働があるとは言えず休業とは認められない」として、休業手当の支払いを拒否した。団体交渉を重ねると会社は一部の期間について休業手当の支払いを認めた。休業手当が支払われない残りの期間について休業支援金の申請を行うこととし会社に申請への協力を求めたが、会社は、シフトが決まっていない期間は予定している労働はないため休業とは認められないとの理由で申請への協力を拒否した。その後、厚生労働省がシフト制労働者にも休業支援金を適用できると公表したことやユニオンによる働きかけの結果、最終的には会社も休業支援金申請への協力に同意した。

⑩ 株式会社F

飲食店に野菜を卸す野菜卸業者である同社で、Sさんは夜勤を行なっていた。Sさんはもともと週5日21時から翌朝6時に働いていたが、昨年の3月ごろから新型コロナウイルスの影響で労働時間が減少した。

緊急事態宣言が発令された4月に入ると「しばらく仕事はありません」と会社から言われた。休業手当も出されず、しばらく待っていると、会社から「もう仕事はないので、退職してください」と言われ、アルバイトは全員退職に追い込まれた。Sさんは休業手当が出ていないのはおかしいと飲食店ユニオンに加入し団体交渉をした。会社は「シフト労働者だから、休業に当たらない」と休業手当支払い義務を否定した。しかし、粘り強く交渉し、4月〜9月までの休業補償を解決金として勝ち取ることができた。その後、シフトも回復されなかったため、Sさんはこんな会社で働きたくないと退職した。

⑪ 富士そば

 新型コロナウイルスの影響で、週40時間働いていた50代男性アルバイトKさんのシフトは、2020年2月以降大幅にカットされ、2020年4月には週24時間にまで労働時間が減少していた。休業手当は一切支払われなかった。Kさんは富士そばでのアルバイト収入のみで生活していたため、今後の生活に大きな不安を感じたという。シフトは半月ごとに決定され、契約書の「就業時間」では、出勤する曜日と時間が定められていたものの、「同意を得て変更することがある」との記載があった。

 その後Kさんは首都圏青年ユニオン飲食業分会の飲食店ユニオンに加入し、富士そばにシフトカット分について、通常給与10割の休業手当支払いを求め、富士そばで働くすべてのアルバイトへの通常給与10割の休業手当支払いを勝ち取った。

⑫ K薬局

K薬局で薬剤師として2年間働いていたNさんは、2020年7月以降店長兼社長から、質問しても無視される、体型のことを馬鹿にされる、理不尽に怒鳴られるといったパワーハラスメントを日常的に受けるようになる。同時にシフトも減らされるようになった。それまでは月120時間から130時間働いていたが、7月は約110時間、8月は約90時間となり、また2021年1月以降さらにシフトカットされ、2021年2月は70時間未満となっている。こうしたシフトカットについて休業補償はなされず、また労働時間の減少を理由に社会保険からの脱退もほのめかされている。

口頭で週30時間程度働くことが労使で確認されていたものの、契約書や労働条件通知書は一切ない。シフトは1か月ごとに店長兼社長によって決定される。

4.シフト制労働と法律による救済

(1)シフト制労働と休業補償

所定労働時間・所定労働日よりも実際の労働時間・労働日が少ない場合には「休業」が発生していると評価されるが、この休業が使用者の都合で発生する場合、使用者は休業分の金銭補償をしなければならない(民法第536条2項または労働基準法第26条)。民法第536条2項が適用されれば、休業分について全額の賃金を使用者は支払わなければならず、労働基準法第26条が適用されれば、休業分について、平均賃金の6割の休業手当の支払い義務が使用者に発生する。

休業が「使用者の都合によって発生した」と言えるかどうかが争点となるが、労基法第26条の適用範囲は民法536条2項の適用範囲よりも広い。いずれにせよ新型コロナウイルス禍で行政による要請・命令によって発生する休業についても、広くこれらの法律が適用されると考えられる。より詳細な検討は、付録2を参照していただきたい。

①シフト制労働者と休業補償

上述のように、使用者の都合で、実際の労働時間・労働日が所定労働時間・所定労働日よりも少なくなった場合には休業補償がされなければならないが、事例からも分かるように新型コロナウイルス禍では、労働時間が大幅に削減されているのに休業補償がされないシフト制労働者が大量に発生した。

シフト制労働者の場合、シフトによってはじめて労働時間が決まるようにも見えるため、シフトが作成されていない期間について、所定労働時間・所定労働日の存在そのものが曖昧となる。そうすると、「休業」の発生そのものが曖昧となり、休業手当や賃金の請求が困難になるのである。なおシフト制労働者の休業手当について参考となる裁判例・事件として、付録1を参照していただきたい。

② シフト制労働者の休業補償問題の類型ごとの考察

(a) 決まっていたシフトが減少された場合

まず、一度はシフトが決まっていたが、これを減少された場合、少なくとも、シフトが決まった時点で労働時間が確定されたと評価できるので、これについては休業と評価でき、賃金や休業手当を請求できる。事例①と⑦にあるように、労働基準監督署も、シフトがすでに作成されたのちに労働時間が削減された場合には休業手当の支払いを企業に指導することができる。

(b) シフトが決まっていない期間について、従来よりも労働時間が減った場合

シフトが決まっていない期間について、従来よりも労働時間や労働日数が減った場合、契約や実態などから、労働時間が決まっている(すなわち、一定時間のシフトを入れることが決まっている)と評価できるかどうかが問題となる。いくつかの類型に区別しながら考えよう。

a.契約書において就労日数や時間が明記されている場合

契約書で、就労の日数や時間が明記されている場合、労働者と使用者との間では、その日数や時間は労働するという契約があるといえる。したがって、具体的な就労実態はひとまず措くとして、労働契約書上の日数や時間よりも実際のシフトが減少した場合には、この減少分は休業したと評価でき、賃金や休業手当を請求できる。

b.契約書に明記はないが就労の実態などから就労日数や時間が特定できる場合

契約書に労働時間の定めがない場合でも、必ずしも労働時間の定めがないとされるわけではなく、労働の実態なども考慮され判断されることになる。そのため、過去のシフトの実績やそのようなシフトになった経緯、勤務開始時の使用者の説明などから、労働者と使用者との間の労働時間が確定されていると判断できる場合には、その労働時間から実際の労働時間が減少した部分について、賃金や休業手当を請求できる。

本黒書の第1の3で挙げた事例の多くがこの類型にあたる。パートやアルバイトで継続的に生計を立てなければならないとすれば、多くの場合、就労日数や就労時間はある程度の規則性をもつようになる。このようにある程度の継続性・規則性をもって働いていた実態があるとすれば、契約書上に労働時間の記載がなかったとしても、事実上「労働時間が定められていた」と判断されるため、その定められていた労働時間未満に事業主によって労働時間削減がされた場合には、休業補償が支払われるべきである。

c.契約書などが一切なく、また、就労実態等からも労働時間の特定が困難な場合

契約書などが一切なく、また、就労実態等からも労働時間の特定が困難な場合がある。たとえば、勤務を開始したばかりで、就労実態がない場合や、就労実態はあるが、各月の就労時間がバラバラで規則性がなく、労働時間を特定することが困難な場合である。

一応の就労実態がある場合には、過去の就労実態から、最低でも月に何日、何時間働いていたというような形で労働時間を特定したり、全く就労実態がない場合には、その勤務先における同種の労働者の平均等を参考に労働時間を特定することが試みられるべきである。

また、そもそもこのような場合は、会社が労働契約において労働時間を労働者に明示していないと評価できる可能性がある。そうだとすると、会社が負うべき労働条件明示義務(労基法15条)に違反していることになる。この場合、このような労働条件明示義務違反があるとして会社に対して責任を追及することが考えられる。

③ 小括

 厚生労働省は、シフト制労働者の場合には、一般論として、シフトが組まれておらず労働日とされていない日について、労基法26条の休業手当の支払義務があると評価することは困難との見解をとっている。しかし、休業中の生活保障という休業手当の趣旨から、そのような見解は極めて不当であり、法解釈としても誤りである。シフト制労働者の生活の安定のために休業補償の権利を幅広く確立していく必要があるし、行政の対応も改善すべきだろう。

 また、シフト制労働者の休業補償の獲得は、現状では所定労働時間・所定労働日の存在が曖昧であるために困難となっている。そうした現状の中で休業補償を獲得する可能性を高めるために、労働者個人が行える防衛手段として、①労働契約書に労働時間を明記してもらうことや、②労働契約書に労働時間を明記してもらえない場合には、労働時間に関する証拠を保存しておくことがある。例えば、労働者募集の広告、入社時の説明の録音、過去の労働時間やシフトの保存、過去の給与明細などを取っておけば、所定労働時間・所定労働日が存在したことを示す証拠となりうる。

(2)正規社員と非正規社員との待遇格差

 シフト制労働者のほとんどが、短時間労働者または有期労働契約、あるいはその両方を兼ねていると考えられるが、2021年4月1日から全事業者に適用された「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(以下「パート有期法」という。)は、次のとおり定める。

(不合理な待遇の禁止)

第八条 事業主は、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならない。

(通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止)

第九条 事業主は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者(第十一条第一項において「職務内容同一短時間・有期雇用労働者」という。)であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(次条及び同項において「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならない。

 これらの法律は、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の間で、給与や賞与や各種手当などをふくむ「待遇」の目的・性質・趣旨に照らして、不合理な格差をつけてはならない(同一労働等の場合には差別的取扱いをしてはならない)ことを定めている。ここにいう「待遇」には、労働基準法26条に基づく休業手当も当然に含まれる。

労働基準法26条に基づく休業手当の趣旨は、休業期間中、使用者は労働者に対して平均賃金の6割以上の休業手当を支払うことにより、労働者の生活を保護することにある。この趣旨から、パート・有期労働者と「通常の労働者」とで支給の有無に相違を設けるべき理由はない。

 また、「通常の労働者」に対して労働基準法第26条で定める「平均賃金6割」を超える休業手当を支給していた場合、職務の内容等の相違の有無・程度にかかわらず、パート・有期労働者にも同率の休業手当を支給しなければならない(労働契約法20条の解釈適用に関して、労働基準法37条の割増率を超える割増賃金を正社員に支給していた事案について契約社員にも同率支給しなければ不合理とする判例があり、労働契約法20条の趣旨を引き継いだパート・有期法8条・9条の適用にあたっても当然妥当する)。

本黒書第1の3では、K株式会社(事例①)や株式会社KIDS(事例②)、フジオフードシステム(事例⑥)が、正社員に休業手当を支払っているにもかかわらず、非正規労働者への休業手当の支払いを拒否しているが、これらはパート有期法第8条または第9条違反であるといえよう。フジオフードシステムについては、正社員には通常給与100%の休業手当を支払っているため、シフト制のアルバイトにも通常給与100%の休業手当が支払われなければならない。また株式会社KIDS(事例②)は、雇用保険の加入・非加入を休業手当支払いの基準としているが、休業手当の趣旨に照らして雇用保険の加入の有無を考慮することは適切ではないため、雇用保険非加入者にも雇用保険加入者と同様に休業手当が支払われなければならない。

(3)制裁(嫌がらせ)としてのシフトカット

 事例③や事例⑧や事例⑫であるように、会社の意に沿わない労働者に対する制裁としてシフトカットが行われる事例は多い。こうした制裁的なシフトカットの恐怖から、シフト制労働者による権利行使は大きく妨げられている。シフト制が管理者による労働者の支配の道具として、悪用されているといえよう。使用者による嫌がらせでしかない。

 第1に、制裁的なシフトカットについても、本黒書の4(1)で述べたように、休業手当が支払われるべきである。

 第2に、制裁的なシフトカットがパワーハラスメントとして行われていると判断される場合には、慰謝料の請求も行いうる。

パワーハラスメントとは、職場において行われる優越的な関係を背景とする言動で、当該言動が業務上必要かつ相当な範囲を超え、当該言動によって労働者の就業環境が害されるものであると定義される。厚生労働省はパワーハラスメントの行為類型のなかに、「業務上の合理性がなく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや与えないこと(過小な要求)」を含めているが、管理者という優越的関係を背景に気に食わないからという理由で行われるシフトカットは、ここに該当する可能性がある。

もっとも大方の事案では嫌がらせという本音を隠すために、仕事ができない、業務命令に従わないなどもっともらしく見える理由でシフトカットを正当化してくることが多いため、そのようなケースに対応するために日ごろから嫌がらせを録音・メモするなど、こまめに準備することが重要である。

(4)シフト制労働者の失業時生活保障からの排除

シフト制契約の弊害は、雇用保険との関係でも生じている。以下、青年ユニオンの相談者および組合員の事例から問題を取り上げ、シフト労働者保護のためとるべき施策を提案する。

① シフト削減に伴う雇用保険脱退

事例①や事例④のように、一方的なシフト削減により週労働時間数が減少したことで雇用保険を含む社会保険の適用基準から外れ、社会保険から脱退させられてしまうケースがある。また一方的なシフトカットにより給与が激減するなか社会保険料を支払わなければならず、やむを得ず自ら脱退する事例もある。こうした場合、労働者としては、雇用保険給付や傷病手当が利用できなくなるなど、不利益が大きい。

契約書や実態に即しての所定労働時間・所定労働日を明確にし、それを実際の労働時間・労働日が下回る場合には休業補償を使用者に行わせるとともに、社会保険の加入・未加入は、使用者の意のままにされてしまうシフトの現状ではなく、就労実態や契約書等に即して明確化される所定労働時間・所定労働日に沿って判断されるべきだろう。

② シフトカットを理由とした離職の扱い

事例①のように、シフト削減に伴う賃金低下を理由に離職した場合に「自己都合離職」と判断されてしまうことがある。「自己都合離職」と判断されると、「会社都合離職」と比べて給付日数・給付額が抑制され、また2か月間の給付制限期間が課されてしまう。山下芳生議員の国会質問に対して、田村厚労大臣はシフトカットによって離職した場合、「特定理由離職者」として給付制限期間なく給付されるように扱っていると答弁している。確かに「特定理由離職者」の場合給付制限期間は課されないものの、給付日数や給付額は「自己都合離職」と同じく抑制され、新型コロナウイルス禍における給付日数延長の特例措置の対象にもならない。

 シフトカットを理由とした離職者は、「会社都合離職」と判断されるべきである。「会社都合離職」と判断される基準が厚生労働省によって示されているが、その基準の1つに「賃金が、当該労働者に支払われていた賃金に比べて85%未満に低下した(又は低下することとなった)ため離職した者(当該労働者が低下の事実について予見し得なかった場合に限る。)」(特定受給資格者の範囲2(4)、いわゆる賃金低下要件)という項目がある。望まないシフトカットによって離職した場合には、この賃金低下要件に当てはめ、「会社都合離職」とみなすべきであろう。


第2 政策提言編 

 これまでシフト制労働者の実態と、現行の法律・制度による救済の余地・可能性について検討してきた。しかし現状としてはシフト制労働の規制は十分とは言えず、新型コロナウイルス禍ではそうしたシフト制労働の不安定が大きく顕在化した。シフト制規制を形成・発展させる必要があるが、どのような課題があるのだろうか。

 第1に、現行の法律においても、シフト制労働者のシフトが出ていない期間について、それまでの労働契約書・労働条件通知書の記載や就労実態に基づいて所定労働時間・所定労働日を確定することで、事業主の都合による労働時間の削減について、法的な休業手当支払い義務を使用者に課すことは可能である。しかし行政の抑制的な法解釈によって、シフト制労働者を雇う使用者の休業手当支払い義務が認められづらくなっている。

第2に、行政の法解釈が変更され、実態に即して所定労働時間・所定労働日を判断することが可能だとしても、やはり労働契約書や労働条件通知書で労働時間を明確に確定しなければ、所定労働時間・所定労働日は不安定なものとなってしまう。

第3に、労働基準法第26条の休業手当がより広範に適用されるようになったとしても、労働基準法第26条で定められた休業手当は「平均賃金の6割」であり、実際に支給される休業手当は通常給与の半分以下となってしまう。これでは、低賃金のシフト制労働者の生活を守ることはできない。

第4に、シフト制労働者のなかに多く含まれている短時間労働者や学生労働者の失業時生活保障の問題がある。就業時間が週20時間未満の労働者や学生労働者は雇用保険から排除されており、失業時に生活困難を抱えてしまう。

第5に、労働時間が使用者に都合よく変動されてしまうシフト制労働者の生活保障政策には、個別企業の休業補償義務の厳格化に加えて、企業横断的な制度・機関によって個別企業の都合でのシフト調整によって発生する収入低下に補償を行うという方向性がありうる。

 以下では、この5つの点について政策提言をしている。

1.休業手当のシフト制労働者への適用拡大と休業手当の水準改善

(1)休業手当のシフト制労働者への適用拡大

 現在の厚生労働省の法解釈によれば、労働契約書・労働条件通知書が存在しない場合やそこに労働時間の記載がない場合はもちろん、労働契約書・労働条件通知書に労働時間の記載があったとしても、「シフトによって変動する可能性がある」といった趣旨の文言が挿入されていれば、就労実態がどうであれ、シフトが確定していない期間について所定労働時間・所定労働日を確定することはできず、労働基準法第26条の休業手当支払い義務を使用者に課すことが困難とされる。シフト制労働者は、シフトによって労働時間を0にされても給与補償を受け取る法的権利がないということになりかねない。

 本黒書の4(1)にあるように、労働契約書・労働条件通知書に労働時間の記載がない場合や、労働時間の記載と共に「シフトによる」などと言った文言が挿入されている場合でも、そこから直ちに、シフトが出ていない期間について所定労働時間・所定労働日は存在しないと判断するべきではなく、就労実態や労働契約書・労働条件通知書の労働時間についての記載などに基づいて、所定労働時間・所定労働日を確定すべきである。こうした対応は法律の改正をせずとも、行政の法解釈を変更することで実施可能である。

厚労省は早急に誤った法解釈を改め、労働局や労基署等の関係機関に対し労働契約上の所定労働日・労働時間の特定を周知・徹底するなどして、労働基準法第26条をシフト制労働者に広く適用していくべきだろう。

(2)最低シフト保障の制度化

多くのシフト労働者は、毎月あるいは毎週の労働時間が変動することが前提となってしまっている。契約書上も「労働時間はシフトによる」となっていることが多く、このことにより、会社都合の休業であっても、シフトの変動と評価され、会社が休業と認めず、補償が得られない状況がコロナ禍で浮き彫りになった。また、会社が事実上自由にシフトを変動できるため、嫌がらせや制裁的なシフトカットも可能となってしまい、制裁を恐れて、シフト労働者は理不尽な扱いに遭ったとしても耐えて我慢しなければならず様々な権利行使の妨げにもなっている。

このことを解決するためには、シフト労働者の労働時間(最低シフト)の保証を使用者にさせなければならない。最低シフトの保証をさせることで、シフトカットを無闇に行わせない、また、最低シフトを下回った労働時間になれば使用者都合の休業とみなすことが可能となる。

 最低シフト保証を制度化する第1の方法は、労働基準法15条1項に「最低保障労働時間」「最低保証賃金」を加えるという方法である。労働基準法15条は、使用者に対して労働者の労働時間等の労働条件の明示を義務化するものだが、同法施行規則5条において、具体的な明示内容を規定している。もっとも、労働時間については、「始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて就業させる場合における就業時点転換に関する事項」としか規定されておらず、週や月の労働時間の明示規定はない(労基法施行規則5条1項2号)。この施行規則に「最低保障時間」や「最低保証賃金」の明示義務を加えることで、最低シフト保障という形での規制が可能となる。それに加え、労働基準法89条に就業規則の規定事項が掲げられているが、就業規則にも「最低保障時間」や「最低保証賃金」の定めを記載するよう労働基準法89条の改正も必要であろう。

その上で、ハローワークの求人票においても「最低保障時間」および「最低保証賃金」の記載を徹底させ、民間の求人においても同様の記載を徹底させるよう厚労省からの通達を出すという方法でシフト制労働の規制をするべきだ。

 第2の方法は、労働組合と企業(あるいは業界団体)と最低シフト保証の労働協約を結ぶという方法である。シフト労働者の労働時間の運用については、企業ごとに異なっていたり、学生労働者やパート労働者などの労働者層の違いもあるだろう。そのような場合に、企業ごとに即した最低シフト保証制度を労働協約によって規定することは、より柔軟なシフト規制に繋がると考えられる。また、業界ごとに労働協約を結ぶこともより広範囲なシフト制労働者規制として効果的である。飲食業界などは、労働者の8割以上が非正規労働者と言われており、そのほとんどがシフト労働者と考えられる。業界のルールとして労働組合との最低シフト保証の労働協約の締結を追及すべきであり、政府や行政なども労働協約の締結の後押しをすべきであろう。

 さらには、裁量労働制や変形労働時間制のように、シフト労働制で労働者を働かせる場合には労使協定の締結及び協定書の労働基準監督署への届出を義務化することも、手続き上の規制として有効であり、労働基準法の改正も検討すべきだろう。

(3)労働基準法26条(休業手当)・12条(平均賃金)の改正

 休業手当の支払いがされているケースでも、支払われている休業手当が通常給与の半分以下となっているなどで、「これでは生活できない」といった相談も寄せられている。労働基準法26条で定められている休業手当の最低基準が「平均賃金6割」と非常に低い水準で設定されているためである。労働基準監督署などの行政の対応が改善され、労働基準法26条を適用させる範囲が拡大した場合でも、労働基準法第26条の改正を伴わなければ、支払われる休業手当が安すぎるという問題は改善されず、労働者の生活を保障する仕組みとはならない。具体的には以下のような改正が必要だろう。

 第1に、「平均賃金」の算定方法を定めている労働基準法第12条の改正が必要である。時給で働くシフト制労働者の場合、平均賃金とは、①直近3ヶ月の賃金総額をその期間の総日数で除した金額か、②直近三箇月の賃金総額をその期間中の労働日数で除した金額の6割の、いずれか高い方を指すものであるとされる。②を採用する場合には、平均賃金そのものが通常給与の6割水準となることが明白だが、①が採用される場合でも、給与総額を労働日も休日も含めた「総日数」で除し、それを休業手当としてもともと働く予定だった日(すなわち労働日)に支払うため、必然的に数割減となる。「平均賃金」を通常給与の数割減としなければならない合理的な理由はなく、したがって、平均賃金の算定方法を、「直近数ヶ月の給与総額を労働日数で除す」ものと改正すべきである。

 第2に、労働基準法第26条では、「平均賃金の6割」が休業手当の最低基準となっているが、仮に「平均賃金」の算定方法が上記のように改正されたとしても、「6割」では依然として給与が大幅に減少する。労働基準法第26条は、労働者の生活の安定を趣旨とするものだが、通常給与6割水準では、とりわけ低賃金のシフト制労働者が生活することは困難である。したがって、平均賃金の算定方法を上記のように改正することに加えて、休業手当の最低基準を、少なくとも「平均賃金の8割」に改正すべきである。

2.雇用保険制度の改善によるシフト制労働者の失業時・休業時の所得保障の充実

(1)失業時生活保障の充実

コロナ禍において、短時間労働者が大きな被害を受けている。補償なきシフトカットよって事実上の失業に追い込まれ、雇止めも増加している。しかし、雇用保険の適用基準は労働時間が週20時間以上でなければならず、それ以下の労働者には失業時に使える生活保障制度がない。労働時間が週20時間以下であっても、その収入が生計維持にかかせなくなっており、非正規収入の喪失が生活困窮に直結している。

そのため、シフト労働者に配慮した短時間労働者向けの雇用保険が必要である。労働時間に関わらず全労働者が加入可能とするか、少なくとも対象となる労働時間を10時間以上に引き下げるべきである。週20時間以上の条件を満たしていても、シフト制で労働時間が変動することから企業が雇用保険に加入させない例も多くあるが、短時間労働者向けの雇用保険創設によって、全労働者、もしくはほとんどの労働者が雇用保険の加入対象となれば、そうした問題も解決されるであろう。

また自己都合の場合に設けられる給付制限期間は、雇用保険の利用を抑制している。低賃金・無貯蓄で働く非正規労働者の場合、失業時にすぐ給付を受けられなければ、規制のないシフト制のような不安定な仕事を選ばざるを得なくなる。したがって、離職理由による給付制限期間は取り払うべきである。

なお、学生は原則雇用保険に加入できないが、学生も通常の労働者として扱い、資格がある場合には雇用保険に加入させるべきである。学生は失業しても親の支えがあるという考えのもと、雇用保険の対象から除外されている。しかし、コロナ禍では、親から経済的に自立して学生生活を送っていた学生が、バイト収入を失って生活困窮に陥ったことが社会問題となった。親世代の収入低下や高学費、奨学金制度の不整備が原因で、学生も労働者として生活のために働かなければならない状況にある。学費の大幅な削減・無償化や給付奨学金制度の拡充によって働かなくとも学生生活を送れるような条件を充実させる必要があることは言うまでもないが、それに加えて失業時の生活保障として学生の雇用保険加入を可能とすべきである。

(2)休業時生活保障制度の創設・恒常化

 現在のシフト制労働者の所得の不安定への対応には、2つの道がある。第1に、シフト制労働者を雇っている個別企業に対して、労働者への休業補償義務をより厳格に課すというものである。労働基準法第26条についての行政解釈の変更やその水準の引き上げはこうした方向での対応を企図したものである。第2に、個別企業の柔軟なシフト制運用によって発生する所得の喪失・不安定に対して、企業横断的な産業別の機関・制度や国によって所得補償をするという方向での対応がある。新型コロナウイルス禍では、シフト制労働者の「補償なし休業」によって発生する生活困難への対応として、国による直接的な休業補償制度である「新型コロナウイルス感染症対応休業支援金・給付金(通称「休業支援金」)」が創設されたが、これは国による所得保障制度である。

シフト制労働者の所得安定化のためには、個別企業の休業補償義務の厳格化か、産業別の制度・機関もしくは国による所得補償のいずれかの方向が取られなければならない。後者の方向での対応は、「個別企業の休業補償義務を免罪するものである」としてあくまで「緊急的なもの」と位置づけられている。しかし保険料や税金という形で企業責任を間接的に課しながら、シフト制労働者の生活困難に社会的に対応する制度として恒久的な休業支援金制度を創設するという選択肢は何らおかしなものではない。


おわりに 

 1990年代後半以降の非正規労働者の増加や、その中に多くのシフト制労働者を含んでいると思われる短時間労働者の増加は、労働力を、企業が必要な時にのみ賃金を払い使う商品に切り縮め、その購買によって成り立つ労働者の生活への企業責任を希薄化する傾向を促進したと思われる。非正規労働者の休業補償をめぐる団体交渉のなかでは「非正規労働者はこの企業だけで生活を支えようとせずに副業してくれ」とあけすけに話す企業も少なくなかった。非正規労働の家計における重要性が高まるなか、家計補助労働論の残存に加えて、この間の労働市場流動化による企業責任の希薄化が、非正規労働の新型コロナウイルス禍の労働者の生活困難を生み出していたといえるだろう。

新型コロナウイルスは、1990年代後半以降不安定化する雇用の問題を顕在化させたと同時に、不安定雇用を規制していく取り組みをも生み出した。シフト制労働者の諸問題をめぐる各種ユニオンの取り組みや政党・政府の対応である。こうした取り組みをさらに発展させ、シフト制労働者の生活・雇用への企業や社会の責任を強化していくことが必要だ。本黒書がそうした取り組みを後押しするものとなれば幸いであるし、首都圏青年ユニオン及び顧問弁護団は、本黒書の問題認識・提案に基づいた取り組みを今後一層発展させていくつもりである。


付録1 シフト制労働者に関連する裁判例・事件 

(1)横浜地裁令和2年3月26日判決

①事案

  訪問看護(デイサービス)施設の利用者の送迎業務に従事していた有期契約労働者(原告)が、週の所定労働日数が5日であったにもかかわらず、会社(被告)の責めに帰すべき事由によりこれに満たない日数しか働くことができなかったと主張して、未払い賃金を請求した事案である。

  労働者の入社時の雇用契約書・労働条件通知書には出勤日数として「週5日程度」「業務の状況に応じて週の出勤日を決める。」との記載があり、その後に作成された雇用契約書・労働条件通知書には、出勤日の欄に「毎週(月火水木金のうち週1日以上とする) なお、出勤日の決め方は事前のシフトによって決める。」「業務の状況に応じて週の出勤日を決める。必要がある場合には、勤務日の変更をすることがある。」との記載があった。

  裁判所は、この事案では、雇用契約書・労働条件通知書の記載だけで週の所定労働日数を判断せず、労働者の勤務実態等の事情も踏まえて、労働者・会社の意思の合理的解釈により判断すべきだとた。

  そして、判決は、労働者が実態として概ね4日勤務をしていたとして、所定就労日数は週4日であると認定した。

  また、裁判所は、労働者の出勤日は、会社において、施設利用者の送迎計画表を作成することによって決定され、労働者を送迎計画表に入れるかどうかは、会社の判断に委ねられているとしました。そのうえで、裁判所は、労働者の未払い賃金請求に関連して、労働者が就労をしなかったことは基本的には会社の責めに帰すべき事由によるものである(民法536条2項)と判断して、未払い賃金請求を認めた。

②意義

  本件は新型コロナウイルスによるシフト削減の事案ではないが、会社の判断によるシフト削減という点で共通している。

  新型コロナウイルスの影響により、会社がシフトカット等をする場合でも、本件と同様に、週の所定労働日数について、雇用契約書や労働条件通知書の記載のほか、労働者の就労実態等に基づき、実態に即して判断するものと考えられる。

  また、本判決は、労働者が平均賃金の6割である休業手当(労基法26条)ではなく、未払い賃金の全額(民法536条2項)を請求し、裁判所がこの請求を認めたという点にも特徴がある。本件では、「送迎計画表」を作成するのは会社であり、それにより労働者の出勤日が決定していたと認定したが、「シフト」についても同様の考え方となるだろう。

  シフトカット等の判断をするのは、会社であるから、シフト労働者が、本人の同意なくシフトカットやゼロシフトとされた場合には、民法536条2項により減少した賃金の全額を請求することが可能と考えられる。

(2)大阪地裁(係属中)

①事案

  本件は、緊急事態宣言以降、シフトを一方的に週3日から週1日に減らされたパート社員(原告)が、会社(被告)が正社員に10割の休業補償を支給する一方で、パート社員には休業補償が全くなされなかったことから、労働契約上の勤務日数が週3日であることの確認及び減らされたシフト分の未払い賃金の支払いを求めて、大阪地裁に提訴した事案である。

  労働者は、数年前から大阪府のウェディングフォトスタジオでパート社員として勤務していた。雇用契約書には勤務日数として「シフト制(週3日、月13日前後)」と記載され、実際にも入社以来、週3日で就労してきた。

2020年4月7日の緊急事態宣言を受けて、会社は、全店舗の休業を決定し、原告を含むすべての従業員に一斉休業を求めた。

  原告は、会社に休業補償を求めたが、会社はすでにシフトが出ている同年4月分については10割の賃金を支払ったものの、同年5月分については、正社員に10割の賃金を支払う一方で、原告らパート社員には、一律で週1日分の賃金しか支払わなかった。

  また、会社は、同年6月に業務を再開して以降は、正社員については通常の出勤日の半分ないし3分の1のみの出勤を命じ、原告らパート社員には週1日の勤務のみ命じた。そして、正社員については、休業した日について10割の賃金を支払う一方で、パート社員については実際に勤務した日の分しか支払わず、シフトを減らされた日についての賃金補償を全く行わなかった。

  さらに、会社は、原告らパート社員に対し、勤務日数を週1日とする契約内容に変更することに同意する同意書にサインをするように迫った。

②意義

  本件は、コロナに乗じた一方的な補償なきシフト削減の事案である。コロナ禍でのシフト労働者に対するシフトカットについて、訴訟の提起に至った初めての事例と思われる。民法536条2項あるいは労基法26条による未払い賃金の支払義務とともに、非正規労働者に対する差別も争点となり得る事案であり、その判断が注目される。



付録2 民法536条2項及び労働基準法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」の範囲について 

(1)賃金及び休業手当に関する法的規制

①賃金

労働者は使用者に対し、労務を提供する義務を負う反面、賃金の支払いを求める権利を有している。では、労務を提供する義務を履行しなかった場合、当然に賃金の支払いを受けられないかというと、そういうわけではない。民法第536条2項本文は次の通り定めている。

「債権者の責めに帰すべき事由によって債務を履行することができなくなったときは、債権者は反対給付の履行を拒むことができない。」

これは、労働契約に即して説明すれば、使用者の「責めに帰すべき事由によって」、労働者が労務を提供する(債務の履行)ことができなくなったときは、使用者は賃金(反対給付)を支払うことを拒むことができないという意味である。

「責めに帰すべき事由」とは、「故意、過失、または信義則上これと同視すべき事由」とされている。

「故意、過失、または信義則上これと同視すべき事由」というと、難しい表現であるが、使用者が意図的に、もしくは使用者のミスによって、労働者が労務の提供ができなくなった場合という程度の意味である。

一般的には、労務の提供ができなくなった原因が、①外部の事情に起因しており、かつ、②それを防止することが使用者に不可能である場合には、使用者の「故意、過失、または信義則上これと同視すべき事由」には当たらないとされる。このように、使用者の「故意、過失、または信義則上これと同視すべき事由」によって労務の提供ができなくなった場合、労働者は、賃金の全額を使用者に請求することができる。

②休業手当

さらに、労働基準法第26条は次の通り定めている。

「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。」

また、この規定に違反すると罰則(30万円以下の罰金)が科せられる可能性がある(労基法第120条1号)。

ここでも、「(使用者の)責めに帰すべき事由」との表現が出てくるが、これは先ほどの民法第536条第2項本文の「責めに帰すべき事由」よりも広く、民法上は使用者の帰責事由にならない経営上の障害も、天変地異などの不可抗力に因らない限りは、労基法第26条の「責めに帰すべき事由」に含まれると解釈されている。

この不可抗力とは、先ほどの民法の解釈と対比して説明すれば、労務の提供ができなくなった原因が、①外部の事情に起因しており、かつ、②それを防止することが使用者に不可能である場合であっても、③その原因が使用者の支配領域に近いところから発生し、使用者の平均賃金の60%の支払いをさせたほうが良いという場合には、不可抗力には当たらないとされる。

労働基準法第26条は、不可抗力の場合を除き、使用者に平均賃金の60%以上の手当てを支払う義務を負わせて、労働者の最低限度の生活の保障を図る趣旨である。

(2)債権者・使用者の責めに帰すべき事由の具体例

使用者の責めに帰すべき事由の意味は上記の通りである。この判断は、具体的な事案に応じ、種々の事情を総合的に考慮して判断されるため、一概に「責めに帰すべき事由」に該当するか否かを説明することは困難である。とはいえ、裁判例や厚生労働省の通達等で一定の判断がなされているため、参考となる例はある。一例を挙げると次の通りである。

例えば、機械の検査、原料の不足、監督官庁の勧告による操業停止、流通機構の不円滑による資材入手困難、親会社の経営難のための資金・資材の獲得困難などは、労基法第26条の「使用者の責めに帰すべき事由」に該当すると解釈されている。

ただし、これらの場合も、事案によっては、民法第536条第2項の「責めに帰すべき事由」に該当する場合もあると思われる。

本黒書の事例で多数挙げられた、コロナウイルスを原因として休業や営業時間短縮をし、その結果、シフトが減少されたなどの場合については、原則として、民法第536条第2項や労基法第26条の「責めに帰すべき事由」に該当する場合が多いであろう。

例えば、

A 緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出されていない場合や、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が発出された地域であったとしても、当該事業所にこれらに基づく休業要請や時短要請、休業命令、時短命令などが発出されていない場合、休業や営業時間短縮は、経営者の自主的な経営判断にとどまり、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」があると思われる。よって、賃金の全額を請求できる。

B当該事業所に、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に基づく休業要請や時短要請が発出された場合でも、あくまで要請にとどまるから、休業や営業時間短縮は、経営者の自主的な経営判断にとどまり、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」があると思われる。また、休業や営業時間短縮をした場合でも、業種によっては、休業は必要なく、テレワークなどによって業務を行うことが可能であり、それにもかかわらずテレワークなどを行わず、シフトの減少等を行う場合には、民法第536条第2項の「債権者の責めに帰すべき事由」があると思われ、賃金全額の請求が可能となる。

C 当該事業所に、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置に基づく休業命令や時短命令が発出された場合、これらの命令に反すると過料の制裁が科されることから、これに基づく休業や営業時間短縮は、民法536条第2項や労基法26条が定める「(使用者の)責めに帰すべき事由」に直ちに該当するとは評価できないと思われる。ただし、この場合でも、業種によって、休業を必要としない事業である場合や、テレワークなどで業務可能な場合は、「使用者の責めに帰すべき事由」に該当すると思われ、少なくとも、労働者は賃金の60%の休業手当を請求する権利を有する。

 一般論としては、上記ABC記載の解釈があり得るが、いまだ裁判例は蓄積されておらず、また、コロナウイルス禍により事業者をめぐる状況も多種多様であるため、ABについて、民法536条第2項に定める「責めに帰すべき事由」は認められないが、労基法第26条が定める「責めに帰すべき事由」は該当するという場合や、いずれについても、不可抗力に当たると判断されるような場合もあり得る。

したがって、具体的に問題に直面している労働者の皆様は、お近くの労働組合や弁護士に相談することをお勧めする。



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