Tさんは、3人の子育てをしながらアパレル店舗で販売員として働く女性です。このアパレル会社は、全国に数百の店舗展開をしており、雇用している従業員は数千人にのぼります。また、テレビCMや広告で知名度の高い芸能人を起用し、一躍有名になった大手企業です。
昨年秋、Tさんの子どもが通う保育園で新型コロナウイルスが発生し、Tさんの子どもも濃厚接触者となりました。その数日後、濃厚接触者となっていた子どもの他、Tさんや夫・もう1人の子どもも新型コロナに感染し、保健所からの指示で一家でホテル療養をすることになりました。
保育園に通う子どもが濃厚接触者となり看護をしていた期間から約1か月の間、Tさんは仕事へ行くことができなくなりました。自身がコロナに感染していた期間に関しては、会社から6割の休業手当が支払われましたが、それ以外の部分については無給扱いとなりました。Tさんはこれまで正社員として毎月約14万円の収入を得ており、その収入は3人の子どもを育てる上でなくてはならないものであり、長期間の無給状態は家計を圧迫しました。
♦子の看護のために休んだ労働者の賃金保障をする制度があるのに・・・
Tさんのように、新型コロナの感染や、濃厚接触者となった子の看護のために仕事を休まざるを得なくなった場合、『小学校休業等対応助成金』という国の制度の対象になります。これは、労働者へ有給の休みを与え(※年次有給休暇は除く)、休暇中の賃金を補償した企業が国から100%の助成金を受け取れるという制度です。企業には金銭的な負担が一切かからずに、労働者の休暇中の賃金補償ができるのです。制度の名称は「小学校休業等」となっていますが、保育園や幼稚園などへ通う子どもも対象で、また、子どもがコロナへ感染したり濃厚接触者となった場合にも使えます。
Tさんは、この助成金制度を使って休暇中の賃金を補償してほしいと会社へ掛け合いました。しかし会社から返ってきた返答は、「会社から休むように指示は出していないし、子どものいないスタッフとの公平性が保てないため、会社の方針として使わない」という冷たいものでした。
しかし、Tさんも休みたくて勝手に休んだわけではありません。子がコロナに感染し、自身も濃厚接触者となり、保健所からも自宅待機を指示されていましたし、またTさんが働くショップが入っている商業施設の規約でも濃厚接触者は仕事を休むよう定められていました。仮に、Tさんが保健所の指示や施設の規約を無視し、無断で出勤していたとしたらショップ内や商業施設内はどんな状況になっていたことでしょうか。瞬く間に感染は広がり、その責任としてTさんと会社は、施設から損害賠償請求をされていたかもしれません。
「国としての制度があるのに、なぜ会社は使ってくれないのか…」
Tさんは悔しさと憤りを感じながら、何度も会社へ掛け合いました。担当する労働局からも、会社へ制度利用を促す連絡が何度も入りましたが、それでも会社は頑なに制度利用を拒否し続けました。
また、 企業が制度を使ってくれない場合に労働者が個人で申請できる『個人申請』の仕組みもありますが、この場合も書類記入への企業協力や支給要件への企業の同意などが必須となります。Tさんはこの個人申請も試みましたが、会社は「休んだことは認識しているが、会社から指示は出していない」として受給に必要な協力を拒み、不支給となってしまいました。
♦制度利用を求めて青年ユニオンへ加入、団交へ
会社の対応はおかしいのではないかと感じたTさんは、青年ユニオンへ加入し、今後会社と団体交渉を行っていきます。「自分以外にも、この制度利用を断られ泣き寝入りせざるを得なかったスタッフは全国にいるのではないか…」Tさんはそう話してくれました。Tさん個人が使えるようになるだけではなく、他の困っている従業員も使えるように、全社的な制度の周知・利用も求めていきます。
♦会社の理念と大きく矛盾する主張
この大手アパレル会社では、雇用されている数千人の労働者のうち、96%が女性です。その中で、Tさんのように子育てをしながら働くスタッフも多く在籍しています。
会社は「一番の財産は‘‘人”」と話し、経営理念には『セカンドファミリー(家族の次に大切な関係を築きたい)』と掲げています。
また、「女性が働きやすい職場を追求」「安心して仕事と子育ての両立が可能」「ライフステージに合わせ、長く働ける環境を提供します」と謳い、『産休育休取得率100%!』『厚生労働大臣より子育てサポート企業の認定も受けています!』とアピールしています。
このように、女性の活躍や子育てと仕事の両立のしやすさを様々アピールしておきながら、子育てをしながら働く保護者のための制度を使わない…これには大きな矛盾を感じますし、労働者の当たり前の権利を奪っていることにもなります。
‘‘人’’を財産と考え、セカンドファミリーと謳い、子育てサポート企業の認定も受けているとアピールするならばなおのこと、同制度こそ率先して使い、全従業員への周知と利用を促し、社会にも模範的な姿を見せるべきではないでしょうか。
青年ユニオンでは今後、団交を進める中で会社の対応が変わらない場合、社名を公表した上でさらなる発信を強めたり、厚労省への要請において実態報告、その他諸々の争議行動などに移っていく予定です。
会社にはぜひ、企業理念を遵守し、育児中の労働者の権利を積極的に保障し、また、企業の社会的責任を果たし模範的な対応を見せてもらいたいです。
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