首都圏青年ユニオンでは現在、子のコロナ感染や休園休校の際に利用できる国の制度、『小学校休業等対応助成金』の活用を求めて【株式会社キャン】と団体交渉を行っています。
1か月ほど前、小学校休業等対応助成金制度の利用を頑なに拒否するアパレル会社という内容で記事を投稿しましたが、株式会社キャンはその後行った団体交渉においても制度利用を拒み、また、制度を使わない理由として「従業員間の不公平」という、根拠に乏しく理不尽な姿勢を崩しませんでした。首都圏青年ユニオンでは、助成金を活用せず従業員の生活を保障しないことは到底容認できないとし、抗議・争議行動を強めていくため社名を公表しての発信をすることといたしました。
また、2月2日には記者会見も開き、多くの取材や報道・ラジオやテレビでの放送などもされました。首都圏青年ユニオンに加入し闘っている当事者以外にも、社内では同助成金を拒否された方や、妊婦さんが使える助成金の利用をも断られたという悲痛な声も次々と届いています。
この会社は、『子育てサポート』企業として厚労省からも認定を受けており、多くの女性を雇用していますが、このような非協力的な姿勢は非常に不誠実な対応であり、また、雇用されている多くの女性に対する権利軽視の姿勢でもあると考えています。
ぜひ、多くの方にこの件を知っていただき、また、記事の拡散や争議のご支援にご協力いただけますと幸いです。
Tさんは3人の子育てをしながら、『株式会社キャン』が展開するアパレル店舗【サマンサモスモス】で販売員として働く女性です。以前は店長として複数の店舗を任されていた経験もあり、入社してからの約20年、お店のために会社のためにと走り続け、貢献してきました。
キャンは、全国に数百の店舗を構え、幅広い年齢層へ向けたレディースウェアや親子でお揃いにできるキッズウェアなど、多岐にわたり展開している大手アパレル企業です。雇用している従業員は数千人にのぼり、そのうち96%が女性、社を挙げて女性の働きやすさ、女性活躍を支援していると大きく打ち出しています。
グループ企業には、アースミュージック&エコロジーやアメリカンホリック、メゾンドフルールなどを手掛ける『株式会社ストライプインターナショナル』があり、どちらも企業理念に『セカンドファミリー(家族の次に大切な関係を築きたい)』と掲げています。
昨年秋、Tさんの子どもが通う保育園で新型コロナウイルスが発生し、Tさんの子どもも濃厚接触者となりました。その数日後、濃厚接触者となっていた子どもの他、Tさんや夫・もう1人の子どもも新型コロナに感染し、保健所からの指示で一家でホテル療養をすることになりました。
保育園に通う子どもが濃厚接触者となり看護をしていた期間から約1か月の間、Tさんは仕事へ行くことができなくなりました。自身がコロナに感染していた数日分に関しては、会社から6割(※平均賃金のため実質4割程度)の休業手当が支払われましたが、それ以外の部分については無給扱いとなりました。Tさんはこれまで時短正社員として毎月約140,000円の収入を得ていましたが、この月は手取りで2,500円にまで激減しました。毎月の収入は3人の子どもを育てる上でなくてはならないものだったため、収入減は家計を圧迫し、貯金を切り崩しながら不安を抱える日々を過ごしました。
♦子の看護のために休んだ労働者の賃金保障をする制度があるのに・・・
Tさんのように、新型コロナの感染や、濃厚接触者となった子の看護のために仕事を休まざるを得なくなった場合、『小学校休業等対応助成金』という国の制度の対象になります。これは、労働者へ有給の休みを与え(※年次有給休暇は除く)、休暇中の賃金を補償した企業が国から100%の助成金を受け取れるという制度です。企業には金銭的な負担が一切かからずに、労働者の休業中の賃金補償ができるのです。
制度の名称は「小学校休業等」となっていますが、保育園や幼稚園などへ通う子どもも対象で、また、子どもがコロナへ感染したり濃厚接触者となった場合にも使えます。
Tさんは、この助成金制度を使って休業中の賃金を補償してほしいと会社へ掛け合いました。しかし会社から返ってきた返答は、「会社から休むように指示は出していないし、子どものいないスタッフとの公平性が保てないため、会社の方針として使わない」という冷たいものでした。
しかし、Tさんも休みたくて勝手に休んだわけではありません。子がコロナに感染し、自身も濃厚接触者となり、保健所からも自宅待機を指示されていましたし、またTさんが働くショップが入っている商業施設の規約でも濃厚接触者は仕事を休むよう定められていました。仮に、Tさんが保健所の指示や施設の規約を無視し、無断で出勤していたとしたらショップ内や商業施設内はどんな状況になっていたことでしょうか。瞬く間に感染は広がり、その責任としてTさんと会社は、施設から損害賠償請求をされていたかもしれません。
「国としての制度があるのに、なぜ会社は使ってくれないのか…」
Tさんは悔しさと憤りを感じながら、何度も会社へ掛け合いました。担当する労働局からも、会社へ制度利用を促す連絡が何度も入りましたが、それでも会社は頑なに制度利用を拒否し続けました。
また、 企業が制度を使ってくれない場合に労働者が個人で申請できる『個人申請』の仕組みもありますが、この場合も書類記入への企業協力や支給要件への企業の同意などが必須となります。Tさんはこの個人申請も試みましたが、会社は「休んだことは認識しているが、会社から指示は出していない」として受給に必要な協力を拒み、不支給となってしまいました。
さらに、ここにいたるまでの間に、会社の法務部の人間から「何千人と社員がいる中で、あなただけですよ、申請したいと言ってくるのは。皆さん、子どもがいても納得して休まれてるんです」という、酷い言葉も投げられました。
また、人事の別のスタッフへ制度について確認した際も、「会社では誰もやっていない」と言われましたが、【キャン】では2020年に別の労働組合からも全く同じ件で団体交渉を申し入れられたことがあり、少なくともその方との間では個人申請のやり取りがあったため、この法務部や人事部の言動は事実と異なります。もし仮に、その事実を知らなく、一個人の見解と対応だったのだとしても、きちんと確認せずに不誠実な対応をしたことは許されざることであり、また、そのような対応の仕方を容認している社内全体の風土に大きな問題があると言えるでしょう。
♦制度利用を求めて青年ユニオンへ加入、団交へ
会社の対応はおかしいのではないかと感じたTさんは、青年ユニオンへ加入し、現在【キャン】と団体交渉を行っています。記事の冒頭でもお伝えしましたが、【キャン】は助成金を活用しない理由として、「子どものいるスタッフといないスタッフの間に不公平感が生まれる」「実際にそういう不満の声が上がっている」と主張します。
ではその不満の声というのは、いつどのように聞き取りしたものなのか、全社員のうち何名の方がそのように言っているのか教えていただけますか?と尋ねましたが、明確な答えは返ってきませんでした。それどころか、「従業員間で分断を生み、会社の士気を下げるわけにはいかない」「それが会社の経営判断」「法理で定められているわけでもない」とも言っています。
しかし、きちんとした聞き取りもせず、たった数人の立ち話や噂話程度の域を出ない不満の声を「会社の経営判断」とすることは、全く納得できるものではありません。
また、仮に社内で子どもを持たない方から一部そのような声が出ていたとして、それは、日頃会社として子どものいる世帯と子どものいない世帯との間にすでに分断を生ませるような運営をしてきているからなのではないでしょうか。
♦会社の理念と大きく矛盾する主張
【キャン】では、雇用されている数千人の労働者のうち、96%が女性です。その中で、Tさんのように子育てをしながら働くスタッフも多く在籍しています。
会社は「一番の財産は‘‘人”」と話し、経営理念には『セカンドファミリー(家族の次に大切な関係を築きたい)』と掲げています。
また、「女性が働きやすい職場を追求」「安心して仕事と子育ての両立が可能」「ライフステージに合わせ、長く働ける環境を提供します」と謳い、『産休育休取得率100%!』『厚生労働大臣より子育てサポート企業の認定も受けています!』とアピールしています。
このように、女性の活躍や子育てと仕事の両立のしやすさを様々アピールしておきながら、子育てをしながら働く保護者のための制度を使わない…これには大きな矛盾を感じますし、労働者の当たり前の権利を奪っていることにもなります。
‘‘人’’を財産と考え、セカンドファミリーと謳い、子育てサポート企業の認定も受けているとアピールするならばなおのこと、同制度こそ率先して使い、全従業員への周知と利用を促し、社会にも模範的な姿を見せるべきではないでしょうか。
首都圏青年ユニオンでは今後、さらなる発信を強めたり、厚労省への要請において社名を出した上での実態報告、各店舗や本社前での争議行動などに移っていく予定です。
会社にはぜひ、企業理念を遵守し、育児中の労働者の権利を積極的に保障し、また、企業の社会的責任を果たし模範的な対応を見せてもらいたいです。
最後に、当事者の方からの声を掲載します。
困っているのは自分だけではない
これまで、この会社を信頼し、仕事にもやりがいを感じ、20年に渡り勤務してきました。キャンは、会社として『女性の活躍』を推進していて、産休や育休制度も整っている。子どもを産み育てながらでも長く働ける環境を作ってくれているのだと感じ、これまで感謝をしながら、恩返ししたい気持ちで働いてきました。経験を積んだことで若い世代に伝えていけることも増えたと感じ、新たに入ってきた方々がやりがいを持って長く勤められるよう、個別に相談に乗ったりアドバイスをしたりしながら、より良いお店作りのために邁進してきました。
そんな中、自身の子どもがコロナに感染し、働くことができなくなった時、国の制度の利用を会社へお願いしたところ冷たくあしらわれ、ショックを受け涙が溢れました。そして、普段会社が謳っている企業理念からかけ離れた酷い対応に、憤りも感じました。
無給期間が長くなり、2500円という給与明細を見た時は、この先どうしよう…もし、また同じことが起こったら、生活していけない…と強い不安を感じました。
会社には色々な立場の方が働かれており、様々な考え方もあると思います。私が休むことで他の誰かに迷惑がかかってしまう事、負担をかけてしまう事も重々理解しており、いつも心苦しく思っています。ですが、このコロナ禍での子どもの感染、休園や休校で、どうしても看護は必要となってしまいます。昨年と今年に入ってからの子どもたちへの感染爆発で、この制度の利用を必要としている方は、私だけではなくきっと全国にたくさんいるのではないか。
【困っているのは自分だけではないはず】
その思いで、会社との交渉を行っています。
先の見えないコロナ禍で、私が勤める会社以外でも、この制度を利用できず泣き寝入りせざるを得ない状況の方がたくさんいると見聞きしています。
個人申請の仕組みもできましたが、これにも会社の協力は不可欠で、支給割合が下がる上、申請から支給までにかなりの時間もかかると聞いています。キャンとの団交の中でも、「個人申請には協力してもいい」という答えも返ってきていますが、まずは会社として、きちんと国の制度を利用してもらいたい、子の看護に対する有給での休暇を認めてほしい。その想いを強く持っています。
制度改善や企業への義務付けを求めて、ユニオンの方々と国への働きかけも行っていきますが、引き続き、会社へは助成金活用を求め、諦めずに闘っていきたいと思っています。
キャンにお勤めの方や過去に勤務されていた方で、同助成金について理不尽な扱いを受けたという方がいましたら、首都圏青年ユニオンへぜひご相談いただければと思います!
首都圏青年ユニオンでは今後もTさんを全力で支援し、ともに闘っていきたいと考えています。記事の拡散や、争議のご支援などにご協力いただけますと幸いです。
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