2022年3月30日から4月13日までの2週間、「コロナ禍での子育て・働き方アンケート2022」というネットアンケートを実施し、96件の回答が寄せられました。ご回答いただいた皆様、ありがとうございました。以下、このアンケート結果速報の報告をしたいと思います。
◆回答者の属性
まず、回答者の属性を見てみましょう。回答者のうち「母親」であると答えた人は84%、「父親」14%、「その他」2%でした。お子さんの年代(複数回答)を見ると、「未就学児」44%、「小学生」46%、「中学生」10%、「特別支援学校の生徒」4%、「その他」21%でした。世帯類型を見ると、「ひとり親(親と子のみ)」44%、「ふたり親(親と子のみ)」44%と、ひとり親世帯の割合が大きくなっていることが特徴です。在住地域で見ると、東京が55人で最も多く、次が神奈川の7人と首都圏中心でした。
雇用形態・就業状況を見ると、正社員が41%、パート・アルバイトが31%であり、派遣社員と契約社員を含んだ「非正規労働者」は、42%でした。また「フリーランス・自営業」も4%、「仕事はしていない」方も9%いました。産業は、「その他」22%で、次に多いのが「卸売・小売業」13%と様々な産業から回答が寄せられました。
◆新型コロナウイルス禍での仕事と生活
新型コロナの影響を見ると、「保育園や学校などの施設の利用自粛要請に応じた」という方は29%、「休園・休校・学級閉鎖など保育園・学校などの施設の休業」を経験した方は65%、「子のコロナ感染・濃厚接触者認定」を経験した方は43%、何もなかった方は25%でした。その結果、通常は家にいないのに子が上記コロナの影響で家にいた日数を見ると、30日以上が18%、20~29日が13%、10~19日が29%と、少なくない日数影響を受けていることが分かります。
新型コロナ禍では様々な事情で通常よりも子が家にいる時間・日数が増加し、家庭内でのケア負担が増加していたことが分かります。では、このようなケア負担の増加にどのように対応したのでしょうか。
子が家にいるときの仕事上の対応を複数回答で聞いた設問については、「休暇・時短を取った」という方は67%であり、「仕事を続けた」方が35%でした。「休暇・時短を取った」という方に、その間の給与がどうなったか聞いた設問では、「年次有給休暇を取得した」という方は35%、「特別休暇で全額給与補償をしてもらった」という方は21%でしたが、一方で「賃金は出ていない」という方は53%でした。
自由記述を見ると、子の世話のために休暇を取得したり時短をすることに伴う仕事上の不利益への不安や、休暇・時短への賃金補償がないために生じる経済的困難についての声が聞かれました。
子供の体調不良や、休園などで頻繁に休まないといけない。派遣社員なので、次の更新をしてもらえないのではないかと不安。
保育園が休園になり、区立保育園の代替保育がありましたが、保育時間が9時~17時と正社員が仕事をしている時間より短い時間で、子供の送迎と通勤時間を合わせると10時~16時までしか勤務が出来ず、職場が時間有給制度が使えなかったので、毎日、遅刻と早退扱いで減給されました。(中略)休園でやむを得ず出勤や退勤時間に影響が出てしまうのも、子供が風邪で休む時のように、個人の責任として周りの職員に迷惑をかけているような感覚で扱われ、毎日遅刻と早退をして申し訳ないと謝る日が続き、精神的にも辛くなり、給与保障もされず二重に苦しかったです。
助成金制度はあるものの事業主に許可をいただけず使えませんでした。酷い言葉も言われ会社での肩身も狭くなり辛い思いをしました。切に義務化を希望します。
本当にコロナのおかげで子供の生活が変わりました。 長女のクラスは学級閉鎖があったようですが、私は自主的に休ませていたのでそれが分かりませんでした。仕事で空き時間が出ると自宅で自主学習している子供のところに急いで帰ったり、少しシフトを緩めてもらいましたが、月給は減りました。 またコロナが流行ってくることが心配でたまりません。
休んだ分給料無し。そな後の生活の為の支払い…光熱費やガス代・食費・通院費・国保税・校納金…等色々ありますが…1度目はたまたま10万給付金と重なり何とか乗り越えましたが…借金ですね。コロナのせいで借金。
助成金制度はあるものの事業主に許可をいただけず使えませんでした。酷い言葉も言われ会社での肩身も狭くなり辛い思いをしました。切に義務化を希望します。
企業から全額給与補償付きの特別休暇を取得させてもらえない人は、国からの直接給付である「個人申請」を活用できます。「賃金は出ていない」という方に、個人申請の利用状況を聞いたところ、「個人申請を活用して給付を受給した」という方は8%にとどまり、「個人申請を知らなかった」方が35%、「企業に協力してもらえず利用できなかった」方が24%、「大企業勤務のため制度対象外」という方が19%でした。制度の周知不足や企業の協力拒否や大企業労働者が使えないなどといった制度の不備によって、休業補償から排除されていることがうかがえます。
一方、仕事を続けた人についてその理由を見ると、「在宅ワークで子の世話と仕事を両立できた」という方が53%を占めましたが、他方で「仕事量が過大・勤務先が認めてくれないなどで休めない」という方も13%存在します。自由記述では以下のような声がありました。
小学校等休校対応給付金の制度は使えるものの、上司が仕事の調整をしてくれず、多忙を理由に休めなかった。在宅で仕事をし、効率が落ちてできなかった分は夜中に対応。制度があっても上司の意識改革までしないと意味がないことを痛感
小学校等休校対応給付金の制度自体を許可されず、どうしても休みたいなら有休を使うよう指示された。在宅ワークもできる仕事ではあるが、経営層の考え方が古く、対面でないと駄目だという理由で在宅ワークも使えず。全て妻任せにするしかなかった。」といった声も寄せられています。
職場の余裕のなさが、コロナ禍で増大する家庭内でのケア負担への対応を困難にし、結果として過重労働化していることが分かります。
また、「仕事を休むと減給・無給となるため休めなかった」という方も34%存在します。企業による休業補償の拒否、個人申請の機能不全が、仕事を休めない状況を作り出しているのです。
◆雇用形態別の集計…非正規労働者差別の存在
ここで雇用形態別の状況の違いを見たいと思います。
とくに、子の世話のために仕事を休んだ際の賃金補償状況を見ると、正社員の場合、有給休暇の取得での賃金補償を受けている人が46.7%、特別有給休暇で給与全額補償が16.7%であり、「賃金は出ていない」という方は23.3%でした。非正規労働者も特別有給休暇で給与全額補償されている方の割合は22.6%に上るものの、賃金が一切出ていないという方の割合は58.1%にのぼります。また、「仕事を続けた」理由で、「仕事を休むと減給・無給となるために経済的に休めなかった」という方は、正社員においては17.6%ですが、非正規労働者については37.5%でした。
子の世話の為に休んだ場合の給与補償において、非正規労働者が差別されていることが分かりますし、その結果仕事を休めない状況が非正規労働者の側により強く生じていることが分かります。
◆家庭内ケア増大に伴う精神的なストレスへの対応
自由記述からは、仕事や経済的な困難のみならず、家庭内ケア増大に伴って精神的なストレスや孤立間の高まりなどといった問題も生じていることが分かりました。
休園中ずっと子供と一緒にいるのはしんどいです。何度も叱りすぎて自己嫌悪になっていました。
コロナで保育園の行事・保護者会などはなくなり、親同士のつながりもできず、孤立する親が多いのではないかと思う。近くに頼れる親族がいない場合、親だけで何とかするしかなく、精神的に追い詰められることがたまにあり、ひとり親世帯などはますますそうだろうと思う。経済的支えもだが、人的支えも考えてほしい。
2人だけで孤立する生活は精神的に辛いです。金銭だけでなく、メンタル面のサポートも欲しいです
休暇制度や所得保障制度の問題のみならず、こうした問題へのサポートも重要でしょう。
◆子育てしながら働く労働者のコロナ禍の困難から見えるもの
日本では、過労死を引き起こすような長時間過重労働が長らく存在してきましたが、こうした過重労働は、労働者がケア負担を担わないことを前提にして可能になっていました。これは裏を返せば、会社が家庭内ケアに全く配慮せずに労務管理を行っていたということです。こうした労務管理を正当化するイデオロギーが「性別役割分業」であり、家庭内のケア負担を一手に引き受ける女性と、その女性を養う男性労働者という家族モデルを前提していました。そのため日本では、仕事と育児の両立という課題への対応が非常に遅れていると同時に、育児への対応を私的な領域に押し込め育児の権利保障の乏しさを生み出していました。こうした状況は、従来から女性差別的であり、とりわけ仕事と育児を両立せざるを得ないシングルマザーの貧困をもたらしていましたが、最近の男性労働者の所得の低下や女性の就労意識の高まりのなか、ますますその矛盾を顕在化させています。そして、そうした矛盾は新型コロナ禍のケア負担増大の中で、さらに増幅して浮かび上がってきたと言えるでしょう。
子の世話が必要になっても職場に余裕がなく休みが取れない、また休みを取っても申し訳ない気持ちになり精神的につらい、こうした状況は、労働者がケア負担を担うことを想定していない過重な労働負担や職場環境が引き起こすものでしょう。また、子の世話の為に休んだ際に給与補償がないために経済的困難が生じる、また雇止めされてしまうのでないかという不安を抱える、こうした状況も、育児の権利保障の不十分の結果でしょう。
看護のための給与補償付きの休みを、現在でも不十分ながら存在している「子の看護休暇」の抜本的な拡充によって実現することや小学校休業等対応助成金とその個人申請制度の改善によって救済の網を広げていくことはもちろん、労働時間規制や労働量の規制によって余裕のある職場を作っていくことや雇用の不安定さを是正していくことが必要でしょう。
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